『私の自利利他』vol.4 障害者支援施設 桜花園 生活支援課(崇徳厚生事業団Letter令和3年3月号)
障害者支援施設桜花園で勤務する諸橋さん
その名のとおり、春になれば敷地内の並木には満開の桜の花が咲き誇る。障害者支援施設桜花園では、主に知的障害を持つ方へ入所・通所での支援を行っている。
平成30年春、諸橋彩花(もろはし あやか)さんは社会福祉法人長岡福祉協会に新卒採用され、約50名の方へ施設入所支援を行う桜花園・生活支援課に配属された。もうじき3年目を終えようとしている若手職員だ。
「難しそう」と感じ、障害福祉の道へ
生まれも育ちも長岡市の諸橋さんは、長岡向陵高校を卒業した後は高齢福祉の道に進むことを自然とイメージし、介護福祉士を目指して長岡こども福祉カレッジ介護福祉科に進学した。福祉、介護を志す若者は貴重だが、「小学生か、中学生のころに施設にボランティアに行く機会があり、楽しかった」という原体験があったという。
社会福祉士資格取得のため、専門学校3年次からは東北福祉大学福祉学科の通信教育課程に編入、長岡こども福祉カレッジと併修した。当初は高齢福祉分野への道を志向していたが、社会福祉学科で様々な分野の勉強をしたことや、ここ桜花園での施設実習をきっかけに、障害福祉分野へ方向転換した。
「障害者支援施設は利用者さんの年齢層も幅広く、様々な方が一緒に生活していることが不思議な光景に感じました。趣味嗜好も全然違うだろうし、そういう環境での支援は難しそうだなと感じ、興味が沸きました。」
障害者支援施設を運営する法人は他にもあるなかで、就職先は長岡福祉協会と決めていたという。桜花園で実習したことも大きかったが、それ以前から長岡福祉協会には好印象を抱いていたそうだ。
「介護福祉士の実習で長岡福祉協会のこぶし園にもお世話になったのですが、実習の指導担当者が厳しくもしっかりと教えてくれる方でした。ちょっと怖かったけど、カッコいいなと感じました。」
写真に映るとおり、見た目は普通の若い女性だ。ただ、難しい仕事や厳しい環境を自ら求めて進んで行く姿は、世間一般で抱かれている「若者」のイメージとは大きく違う。
「ご利用者本位」とは何か。悩み続けた3年間
現代は“多様性の時代”ともいわれるが、障害者支援施設はその最たるもののひとつかもしれない。学生時代の諸橋さんが予測したとおり、桜花園での支援は難しかった。
崇徳厚生事業団行動憲章『自利利他』には、「ご利用者満足・ご利用者本位」という行動基準が掲げられている。支援者として、常に利用者のためを思って支援方法を模索しているが、「こうあるべき」「こうなってもらいたい」という思いが押しつけになっていないか、支援者のエゴなのではないか、「ご利用者本位」とは何なのか。この3年間、正解のない葛藤は常につきまとった。
「学生時代から自分なりに色んな人と関わってきたつもりでしたが、自分が居た世界は本当に狭かったのだとすごく感じました。同じ障害・病気・疾患、同じ既往歴だったとしても、『この人とこの人は同じ』だと感じたことは今まで一度もなかった。」
「本当に当たり前だけど、みんなそれぞれ一人ひとり違う。『利用者さんは一人の人間であって、みんなそれぞれ違う人で』というような文章は、福祉系の学生ならば誰もが一度は書いたことがあると思う。もちろん私も本心から書いていたけど、実際に目の当たりにしていたわけではなく、今思えばなんとなくそう書いていた部分があったと思います。」
個別のニーズに何とか応えようと日々努力しているが、「色々やっても上手くいかなかったことのほうが多い」とのこと。入職1年目のころ、担当した利用者の課題に様々な工夫をして支援を試みたものの、時間・人員・本人の意欲など壁が多く、上手く定着させることが出来なかったことがあった。
その経験を通して、「上手くいかないことのほうが多いんだな」と正直に感じると同時に、「頑張ろう」とも思ったという。元々は慎重な性格だったが、新しい試みも後押ししてくれる職場の雰囲気・上司からの指導もあり、様々なリスクに配慮しつつも「まずはやってみよう」という考え方に変わってきた。思うようにいかないことばかりでも、前向きに頑張り続けられるのは、支援者という役割・使命への責任感がある。
「『ただ生きていくだけ』なら支援の手がなくても出来るかもしれない。でもそこに『人間らしく』とか『自分らしく』という要素が加わると、支援する人が必要。人間はただ生きるだけではなくて、この世に生まれて生きている以上、『どうしたい』、『どう生きたい』というものがみなさん何かしらある。私たちの役割はそこをお手伝いすることなのだと思います。」
また、障害福祉の仕事を続けるなかでは、障害者が依然として偏見に晒されていることも感じている。
「障害者はすごく偏見を持たれているし、知的障害はなおさらです。よく知らないから怖く感じてしまう人がいるのはわかりますが、実際に自分がこういうところで働いてみると、怖いものではありません。すごく表情豊かな人がいたり、感情の起伏がちゃんとある。びっくりすることは私もあるけれど、理由もなくしているわけではなくて、本人なりに何か意図があり、私たちなら言葉で伝えられるところ、上手に伝える手段がなくて自分なりの表現方法をしているだけ。そういうことを色々な人に知ってほしいです。」
障害者が一人の人間として『人間らしく』、『自分らしく』生きていける地域社会を真の意味で実現するためには、本人や家族などの周りの人、諸橋さんたち支援者だけではなく、地域社会そのものが変わっていく必要がある。
悩みが尽きない仕事を続けるうえで、自分の価値観や支援方法に自信が持てない時はどうしてもある。自分が選んだ言葉ひとつが引っかかって、家に帰ってから自分の中で反省会をすることもしばしば。
そんな時は上司や先輩・後輩に相談して意見をもらって、色々な可能性や選択肢を増やすよう努めてきた。コミュニケーションが可能な方であれば利用者本人の意思を尊重しながら総合的に判断することで、利用者本位でありたいと考えること、利用者にとって利益になる支援、不利益になりかねないリスクを考えることは繰り返し意識して癖をつけてきた。
今の自分を「桜花園の業務は覚えて何とか仕事出来ている人」と表現した諸橋さんだが、「今後も色々な利用者・支援方法・支援者・支援観に触れて吸収し、桜花園の先輩たちのように、後輩から『こういう先輩になりたい』と思ってもらえるような豊かな人間になりたい」とのこと。
お話を伺ってから数週間後、来年度は桜花園から隣の桐樹園へ異動し、障害者やご家族への相談支援に携わると聞いた。同じ障害福祉でもまた大きく違う業務になると思うが、持ち前の前向きさやしなやかさで乗り越え、諸橋さんなりの「ご利用者本位」を日々追求していってくれるはずだ。
<取材後記>
最後までお読みいただきありがとうございます。今年度最後のLetter3月号を発行させていただきました!
取材をするにあたり初めてのことで緊張しましたが、とても楽しい雰囲気で行うことが出来ました。そんな和気あいあいとした雰囲気で出来たのは諸橋さんの人柄のおかげでした。業務中も利用者の方に対しとても優しく寄り添い様々な視点から想いを汲み取ることが出来る方です。一緒に仕事をして諸橋さんから学ぶものが多く勉強になりました。4月より相談業務への異動となりましたが、変わらず優しく寄り添い、諸橋さんらしく業務をしているんだろうなぁと思います。(取材・編集:社会福祉法人 長岡福祉協会 桜花園 阿部 美里、崇徳厚生事業団事務局 石坂 陽之介)
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